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クルマの追加機能にも「サブスク」の時代がやってきた

いまの時代、毎月のクレジットカードの支払い明細には、おなじみのサブスクリプションサーヴィスがずらりと並んでいる。動画配信のNetflix、音楽配信のSpotify、ゲーム配信のXBox Game Pass、オンラインフィットネスのPelotonなどに加え、ミールキットやワイン、プロテインに低糖質シリアルの定額販売──といった具合だ。

金融大手のUBSの推定によると、「サブスクリプション経済」は新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)による購買傾向の変化に後押しされ、今後4年で毎年18%ずつ成長し、25年には1.5兆ドル(約170兆円)に達するという。

その波に、自動車メーカーが乗ろうとしている。

発想はシンプルだ。ドライヴレコーダーによる映像の記録やハンズフリーでの自動運転、データに基づく運転の支援といった機能を搭載したクルマを販売するので、それらの機能を使うなら追加料金を払ってほしい、というわけだ。このように、ディーラーからクルマを購入したあとでもソフトウェアでアップデートできるという考えは、テスラのおかげで世に広まったと言っていい。

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自動車メーカーがサブスクを次々に導入

ゼネラルモーターズ(GM)は21年10月6日に開催した投資家向け説明会で、サブスクリプションサーヴィスによる増収が30年に200億〜250億ドル(約2兆2,800億円から2兆8,500億円)に達する可能性を示した。GM車のオーナー向けサーヴィス「OnStar」には420万人が加入しており、これには月額15ドル(約1,700円)で利用できるアプリも含まれるという。

また、電気自動車(EV)の新興メーカーであるリヴィアンは、ソフトウェアによって提供されるサーヴィスに対応したクルマ1台は、寿命を終えるまでに15,500ドル(約1,77万円)の収益を新たにもたらす可能性があると、このほど発表した財務報告書で説明している。こうしたサーヴィスには、自動運転やインフォテインメント、インターネット接続、車載式の故障診断装置などの機能が含まれている。

またBMWは昨年、シートヒーターなどを利用できるサブスクリプションサーヴィスの導入を発表し、驚き(と困惑)を招いた。米国では車載カメラのほか、遠隔でエンジンを始動できる機能に対応したサブスクリプションサーヴィスを提供している。

アクセンチュアで自動車とモビリティプラクティスを統括するブライアン・アーウィンによると、自動車メーカーはここ数年、「製品を販売する産業からサーヴィスと製品を販売する産業」へと生まれ変わるべく作戦を練ってきた。近ごろの自動車には、複数のコンピューターチップにカメラ、センサーが搭載されている。これらによる詳細なデータを活用すれば、新製品の開発と販売につながるというわけだ。

BMWはサブスクリプションサーヴィスの提供に乗り出しているが、アップルの「CarPlay」を有料で提供していく計画については2019年に撤回している。PHOTOGRAPH BY BMW

メーカー側が導入を進める事情

自動車業界による電動化の取り組みは、こうしたサブスクリプションをずっと魅力的なものにするかもしれない。「消費者はEVのことを、何か新しいことを実現してくれるテクノロジーだと考えているのです」と、GMのコネクテッドサーヴィスとデータインサイトを統括するアラン・ウェクスラーは語る。

それは消費者が、これまでにないかたちでクルマにお金をかけることにも意欲的、ということでもある。実際のところ消費者が、クルマのことをスマートフォンのような“プラットフォーム”と考え、生活を向上させるには追加で有料アプリが必要になると思ってくれるようになれば、自動車メーカーにとってありがたい話だろう。

以前から自動車メーカーは、ソフトウェアによる追加機能という仕組みに大きな関心を寄せてきた。なぜなら、自動車の生産販売だけでは利益率が低いが、ソフトウェアの開発なら話が違ってくるからである。

ソフトウェアなら開発してしまえば大量に販売できる上に、クルマのようにカスタマイズが生産時に限られてしまうこともない。自動車の耐用年数は平均約12年なので、追加機能を提供できればメーカーの収益向上につながるだけでなく、顧客とブランドの絆を強める機会にもなる。iPhoneユーザーがアップル製品の愛用者になる理屈と同じだ。

しかもサブスクリプションには、ちょっとした“秘密”がある。人はサブスクリプションに登録していることを忘れがちなので、そうなれば企業側は半永久的に課金し続けることもできるのだ。少なくとも、誰かが虫眼鏡を取り出して明細書をじっくり吟味しようと考えるまでは、課金を続けられることになる(噂によると、自動更新やサブスクリプションという手段で企業が消費者を囲い込みづらくなるよう、米国の規制当局が動き始めているらしい)。

ユーザーには「サブスクリプション疲れ」も

とはいえ、ドライヴァーたちが自動車メーカーによるサブスクリプションに乗ってくる保証はない。製品に月額課金されてしまうと結局は高くつく可能性に気付いてしまい、「サブスクリプション疲れ」でうんざりしてしまう可能性があるからだ。そして最終的には、新たなサブスクリプションの契約を拒否することにもなりかねない。

サブスクリプションで利用できる機能が金額に見合っていないと判断されることもありうる。「(サブスクリプションという)仕組みにの理想と現実には大きなギャップがあります。サブスクリプションを長期的に利用してもらう方法を、まだ誰も見つけられていないのです」と、ガートナーの自動車業界アナリストのマイク・ラムジーは指摘する。

GMの社内調査では、適切な製品とサーヴィスの組み合わせなら、顧客は最大で月額135ドル(約15,000円)を積極的に払うだろうとの結果が出ている。具体的には高精度な地図サーヴィスのほか、GM製を含む法人用車両を保有する企業向けのデータ解析、ソフトウェアによって性能を向上させて加速が鋭くなる、といった機能だ。

さらにGMは現在のスマートフォンメーカーのように、外部企業が開発した車載プラットフォーム用アプリをいずれ導入する可能性もあると説明している。

ユーザーからの反発

クルマの追加機能にも「サブスク」の時代がやってきた

とはいえ、これまで標準搭載されていた機能が後付けでサブスクリプションとされることに対しては、すでに反発が起きている。BMWは19年、アップルのiPhoneと車載システムを連携させる「CarPlay」の機能を年額80ドル(日本では13,900円)で提供するサブスクリプションサーヴィスを試験的に実施していたが、この計画を撤回した。

同社は20年夏にも、車線維持システムやステアリングヒーターなどを含むサブスクリプションサーヴィスの導入計画を発表し、同じように反発に遭っている。こうした試みについてBMWの広報担当者は「世界全体でのBMWの戦略の一環」であると説明しているが、同社が顧客の購買意欲についてそのような教訓を得たかについては言及していない。

専門家によると、自動車メーカーは一般的に、安全・安心にかかわる基本機能の有料化については慎重であるべきだと考えているという。安全走行のためだと言って高額なサーヴィスや製品を買わせようとしている印象を与えれば、ドライヴァーの反感を招きかねないからだ。

こうした事態を招かないために、マーケティングに頼ってもいいかもしれない。「サブスクリプションと聞いて抵抗を覚える人もいれば、なじみのないものだと考える人もいます。そこで異なる客層に向けて、異なるかたちでパッケージ化するといいかもしれません」と、アクセンチュアのアーウィンは提案する。

いずれにしても米国では、自動車関連で何らかの毎月の支払いを抱えているドライヴァーが多い。最先端のクールな機能をサブスクリプションと考えるのではなく、いつもの通常の請求についてくる“おまけ”であると考えてみてはどうだろうか。

※『WIRED』による自動車の関連記事はこちら。サブスクリプションの関連記事はこちら。

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