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ニュース <村上春樹インタビュー>人と人をつなぐ場を、未来へ

公の場に現れることも少なかった作家が始めた、新たな場づくりとは?

早稲田大学のキャンパス内に開館した早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリー)に佇む村上春樹

 30年ぶりに足を踏み入れる早稲田大学は、学生運動の名残の立て看板があちこちに点在していたバンカラなキャンパスの面影はすっかりなりを潜めて、現代的に生まれ変わっていた。「4号館→」という看板を頼りにたどり着いた白い建物は、細い曲線の木製ルーバーがオブジェのようにぐるりと取り囲んでいて、異空間への入り口であることを教えてくれている。早稲田大学国際文学館、通称「村上春樹ライブラリー」。ここで、その名を冠された村上春樹その人に会えることになっていた。 村上さんには、1996年に初めてお会いし、スコットランドとアイルランドの紀行文の執筆を依頼して以来(『もし僕らのことばがウィスキーであったなら』という一冊にまとまっている)、雑誌で連載などをお願いしてきたのだが、すっかりご無沙汰していた。そもそも、村上さんが出身大学に自らの名を冠した図書館をつくるということ自体がとても意外だった。作家の名がついた施設といえば、国語の教科書に載るような物故作家が肖像写真やら直筆原稿やらをショーケースに収めた「文学館」がほとんどだから。だいたいにおいて来館者は、薄暗くてシーンと静まり返った館内を黙って回遊し、陳列物をありがたく拝見する(失礼ながら、かび臭いとか辛気臭いと表現したくなることも少なくない)。図書館も同じく、神聖な書物の森の中では静粛を求められる。それは、静的な体験だ。「美術館は芸術の墓場である」と警告したドイツの哲学者がいたが、もしかしたら図書館や文学館にも同じことが言えるのかもしれない。村上の書斎を再現したスペースも登場 >>

早稲田大学の早稲田キャンパス内にオープンした早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリー)

 だが、村上春樹ライブラリーはそんな図書館、文学館の既成概念をひっくり返してくれた。ルーバーのファサードをくぐりエントランスに入ると、まず正面にある地下へと続く階段が迎えてくれる。両側の壁には天井でアーチを描くように設えられた木製の本棚。これは、村上作品を「空間的に分析するとトンネル構造の作品が多い」と考えた建築家の隈研吾氏が、異空間にトンネルを通って下りていくイメージを表現したものだ。 1階には初版本を含む村上春樹の全作品とこれまでに約50言語で刊行された翻訳版が所蔵されるギャラリーラウンジ、ジャズやクラシックのレコードコレクションが並ぶリビングを併設したオーディオルーム。地下にはグランドピアノの置かれたカフェ・ラウンジに加え、村上さんの書斎を再現した部屋まである。館内は温かみのある空間に仕上げられていて、まるで誰かの家に招かれたようだ。それもそのはず、いくつかの家具は村上邸から寄贈されたもの。居心地がよくて、学生が授業をサボって居ついてしまうのではと心配になるほどだ。ライブラリーをオープンするに至った理由を村上さんはこう語る。「もともとかなりの数の本やレコードのコレクションがあるのですが、僕には子どもがいないので死んだら散逸してしまうでしょう。プリンストン大学にいたときにスコット・フィッツジェラルドのライブラリーを見せてもらったことがあって、ああ、こういうのがあるといいなとは思っていたんですよね。著書や原稿がまとめてアーカイブされていて、研究したい人が自由に閲覧できるような場所。それが最初の発想です」

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