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Yahoo!ニュース 伝統の「小紋染め」紋様をデジタル化へ 消滅危機、老舗社長の挑戦

富田篤さんが広げる手前のファイルには、保存状態の良い型紙をできるだけ空気に触れさせないよう入れている。デジタル化に備えて、劣化を防ぐためだ=東京都新宿区の富田染工芸で2021年12月10日午前、近藤浩之撮影

 新春は和服シーズンでもあるが、「小紋染め」をご存じだろうか。江戸時代に発展した伝統の型染め技法で、主に三重県の彫刻職人が型紙に細かな紋様を手彫りしてきた。だが、型紙は経年劣化してしまうため紋様の保存が難しく、後継の職人も少ない。そんな消滅の危機にある紋様をデジタル化して保存・継承しようと、クラウドファンディングによる資金集めが始まった。日本独自の文化は生き残れるか――。【近藤浩之】 東京の桜の名所、神田川・面影橋のたもとにある「富田染工芸」は1882(明治15)年に工房を設立した老舗染物店だ。店内には着物のほか、紋様が描かれたネクタイやスカーフ、傘、美術タイル、財布などが並ぶ。その傍らで社長の富田篤さん(73)が、紋様に破れがある型紙を手につぶやいた。 「これは染めには使えません。でも廃棄すれば紋様まで失われる。紋様は先人の感性や技術の詰まった文化財です。何とか救いたい」 転機は2012年秋だった。東京の伝統工芸職人の技術とデザイナーのアイデアのコラボで「21世紀の名品」を作るプロジェクト「TOKYO CRAFTS&DESIGN」が東京都美術館で開かれた。職人として参加した富田さんの小紋を生かしてデザイナーが提案した「小紋チーフ」が応募265点の中から10点の認定商品に選ばれたのだ。 富田さんは目覚めたという。「着物を染める技術で、別の物も作れる。それまで着物一本だったので衝撃でした。紋様さえあればさまざまな道が開ける可能性がある」 ◇保存方法を模索 数万枚の型紙を所有し、寛政年間(1789~1801年)製作と推定される古い型紙もあるが、やがて風化してしまう。保存する方法はないのだろうか――。 都立産業技術研究センターに相談したところ、コストや技術面の利点から、スキャナーでデジタル化して保存し、レーザーカッターで再現する方法が提案された。その後、色糊(いろのり)の手作り感などの再現を模索し、19年秋から本業の傍ら200枚のデータ化に取り組んできたが、壁にぶつかる。 そこで、ソニーグループと協力し、昨年11月22日からクラウドファンディングを始めた。 また、この伝統技法を現代に伝える職人らの置かれた環境の厳しさも資金集めの背景にあるという。 小紋を見ると、ごく小さな柄が繰り返し描かれている。実はその型紙のほとんどが室町時代発祥とされる三重県鈴鹿市の「伊勢型紙」だ。美濃和紙を柿渋ではり合わせ乾燥させた型地紙に職人が紋様を手彫りし、小さな紋様になると髪の毛1本ほどの細さだ。 江戸時代、紀州藩が伊勢型紙を保護して一大産業となり、オイルショック(1973年)前には300人以上の関係者がいた。職人らでつくる「伊勢型紙技術保存会」は国の重要無形文化財保持団体にも指定されているが、地元にかつての栄華の面影はない。 販売する側の「伊勢形紙協同組合」元副理事長の佐藤利一さん(74)も嘆く。「現在の関係者は約30人と、最盛期の10分の1」。背景には、和服離れや安価な製造技術の開発などがあるという。「消耗品の型紙は古くなれば彫り替え注文もあった。ところが、今の注文は、手彫りの型紙ではなくシルクスクリーンがほとんどで、職人仕事が減ってしまった」 ◇伝統技法は存続の危機に直面 「ほとんどの職人が70代以上で、60代は若手」と手彫り職人で保存会副会長の兼子吉生さん(67)は、高齢化の進行と後継者難による伝統技法の存続を危惧している。「10年もしないうちに、教える人もいなくなってしまう。(高齢化で)目も衰えて、若いころのように細かな仕事もできません。後継者の育成はしていますが、食べていくことができず見切っていく人が多い」 地元では近年、美術工芸品やインテリアなどに小紋染めのデザインや技術を生かす商品作りも進めている。それだけに、関係者は富田さんらが進めるクラウドファンディングに期待をかける。 協同組合理事長の小林満さん(63)が、現状の厳しさについて苦悩をあらわにする。 「今まで何百年も、伊勢型紙は時代に合わせて生き残ってきたが、これから合わせられるかどうか。タイムリミットまで5年ないかもしれず、新しい需要や使い道を見つけないと……。伊勢型紙にも光が差すといいのですが」 富田さんの紋様のデジタル化にはこうした、兼子さんら減り続ける鈴鹿の職人たちへの思いも込められている。 「彫る人も売る人も、紋様をデータ化して保存・継承し、それを売って収入が入る仕組みができれば、後継者育成にもつながるのではないでしょうか。三重県に“伊勢型紙アーカイブ”があればいいのにとも思います」 クラウドファンディングは富田染工芸のホームページ(https://tomita-senkougi.com/)から。今回の取り組みを第1期と位置づけ、返礼品としてさまざまな紋様が描かれた美術タイルを用意した。約1年間は継続的に資金集めを続けるという。

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