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起業家たちがこぞって入居するリサイクルセンターとは?オランダの循環経済に学ぶ | 世界のソーシャルグッドなアイデアマガジン | IDEAS FOR GOOD

多くの自治体にあるのは資源回収のリサイクルセンター。しかし、オランダ・アムステルダムの東隣、アルメーレ市にあるリサイクル施設は「アップサイクルセンター」と呼ばれる。

この場所はサーキュラーエコノミー・ハブとして、住民と資源をつなぐ。さらには、このアップサイクルセンターに入居する起業家らは、住民から回収される資源を活用してビジネスを営んでいる。この場所は、アルメーレのサーキュラーエコノミー促進においてどのような役割を担うのだろうか。アルメーレ市アップサイクルセンターにおいて、ビジネスとの協業や起業家支援を担当するHede Razoky氏に取材した。

サーキュラーエコノミーを目指す、新しい街アルメーレ

アルメーレ市は1984年に成立した、オランダで最も新しい市のひとつだ。アムステルダム中心から東約30キロメートル、車で30分ほどの距離に位置しており、アムステルダムへのアクセスの良さや比較的手頃な居住費なども手伝い、今では住民約21万人規模の都市にまで成長。

この場所に、どういった経緯で、何のためにこのアップサイクルセンターは建てられたのだろうか。

若く新しい街アルメーレ/Image via VisitAlmere

Hedeさん:アルメーレのアップサイクルセンターは2018年に開業しました。でも、実はこの場所の構想を練り始めたのは2012年にまでさかのぼります。

私たちが今いるのはアルメーレハーフンという地域で、 アルメーレ市の最も古い地域です。このすぐ裏に、かつての市の古いリサイクル施設がありました。設備が老朽化してきていたので立て直す必要があり、さらには当時ちょうど建設計画のあった高速道路の通り道になっていたことから、今の場所に移動する必要があったのです。

また、2022年には、このセンターのすぐ裏のアルメーレ市の広大な敷地で、オランダで10年に一度開催される「Floriade」という世界園芸博覧会が開催されることが決まったのです。7回目の今回は「Growing Green Cities」というテーマで、より楽しく住みやすい、持続可能な都市づくりについてのグリーンイノベーションに焦点を当てます。そのイベントで全く新しいリサイクル・プラットフォームを示すことができたら、世界にアルメーレの取り組みを発信する意味でも、素晴らしいだろうということになりました」

アルメーレ市のサーキュラーエコノミー目標

アルメーレ市は、2017年よりサーキュラーエコノミーとエネルギー移行を市の戦略のひとつの柱に据えた。アルメーレはオランダのサーキュラーエコノミー国家戦略と同調する形で、2030年までに利用原材料を半減・2050年までに完全サーキュラーエコノミー移行を目標に掲げている。

すでに市内では様々な活動が進む。市内の廃棄物の再資源化プロセス確立を目指す「Raw Materials Collective Almere」、緑で健康な街を目指し官民一体の連携をすすめる「Groen & Gezond Almere」、さらには経済刺激策として循環型経済移行のための活動を支える起業家への助成を行う。二次資源を活用したビジネスを促進する「Growing Green Cities – Circular city」、市内の再生可能エネルギーへの移行を進める「Almere gives energy」などだ。

また、昨年10月には「サーキュラーエコノミー実践イノベーションセンター(Praktijk en Innovatiecentrum Circulaire Economy:PRICE)」を開業するなど、市を上げてサーキュラーエコノミーへの移行を加速させる。さらにはオランダ国内でサーキュラーエコノミーに取り組む先進的な9の都市、3の省庁、3つのナレッジパートナーと協力して、2050年までにオランダのサーキュラーエコノミー完全移行実現を目指す「Circular City」にも参画している。アルメーレ市は、このアップサイクルセンターをサーキュラーエコノミー移行に向けてどのように位置づけているのだろうか。

アルメーレ市でサーキュラーエコノミー実践とイノベーションを進める「サーキュラーエコノミー実践イノベーションセンター」の目指す循環都市の図/Image via PRICE website

Hedeさん:サーキュラーエコノミーは、市が掲げる4つの重要な柱のひとつとなっており、このアップサイクルセンターはその重要拠点として位置づけられています。アルメーレは非常に新しい街であり、若く挑戦的であることをひとつのアイデンティティとしており、イノベーションを起こすための実験をすることに非常に前向きです。

アップサイクルセンターは、建物もまた循環型です。解体されたプールの材料など、廃棄物を二次資源として再利用して建設されました。さらにモジュラーデザインを採用しています。私たちは、この施設が永遠に同じ場所に存在すべきだとは考えておらず、もし、10年後、20年後、この場所にリサイクリング・プラットフォームが不要となったとすれば、分解し、他の場所に持っていき、同じ様に、もしくは異なる機能を追加して、再開することができるようにつくったのです。

高速建設のため伐採された木がそのまま使われたアップサイクルセンターの外観/写真は筆者撮影

Hedeさん:セメントや鉄鋼は古い建物から出た不要になったものをアップサイクルして活用していますし、木材は都市開発のなかで高速を走らせるためにどうしてもやむを得ず切り倒された木をそのままの形で活用しています。建物脇の木製パネルは、着工と同じ頃解体された学校と体育館から譲り受けました。キッチンのタイルはこの場所に設置されていた古いベンチを活用したものです。トイレのタイルなどは水泳プールから。床から天井まで、すべてアップサイクルされているんです。

『廃棄物はごみではなく、新たな何かを創るための資源』これは、訪れるすべての人へのメッセージです。

起業家が可視化してくれるサーキュラーエコノミーの価値

Hedeさん:アルメーレでは、住民が廃棄物を持ってくると、それを使って起業家たちが素晴らしい製品を作ります。そして施設の中には体験ルームがあり、住民や子どもたち、すべての訪問者が、この施設の仕組みや起業家たちの取り組みを肌で感じられるようになっています。ここ、アップサイクルセンターは、サーキュラーエコノミーを目に見える、手で触ることのできるものにする場所、言い換えれば、住民たちはこの場所を訪れることで、サーキュラーエコノミーを見て触って体験し、実態を伴った考え方として実感できるのです。

アップサイクルセンター内の体験センターでは、誰でもアップサイクルセンターの仕組みを体験することができる/Image via Upcyclecentrum

Hedeさん:サーキュラーエコノミーに関わる私たちのような人はその考え方について常日頃向き合っていますが、多くのオランダ人にとって「サーキュラーエコノミー」という言葉は、全く身近なものではありません。開業当初はみんなアップサイクルセンターが何かわからず、わざわざ遠くにある、街の他の場所のリサイクル施設に行ったほどです。これではまずいと情報発信を強化し、ようやくみんなここは不要になった資源を運び込む場所だということを理解してくれました。国内外からも大きく注目され、多くの視察団が訪れます。カナダやアジアからも。

住民は車でここに来て、不要になった資源をおろします。それを50種類以上に仕分けて回収します。リサイクル施設に対して法律が規定するのが22種類ですので、倍以上も上回る数です。一部のリサイクルセンターは白物家電しか扱いませんが、私たちは大きなPCスクリーンからパソコンなど、多くの種類を受け入れ、分別します。木材、ソフト・プラスチック、紙、化学物質、金属、ファッション、リサイクルのしやすさに応じてA、B、Cといったランク付けをしていきます。といったように、異なる種類の資源を、その後新たな資源として活用しやすいように、別々に分別して受け入れているんです。

このアップサイクルセンターができたことで、従来型の資源廃棄の工程は一新され、廃棄物に新たな息吹を与える拠点へと生まれ変わりました。資源や廃棄物が的確に再利用される、サーキュラーエコノミーへと貢献しています。アルメーレーは廃棄のない、エネルギー・ニュートラルな都市となることを掲げており、これに貢献する象徴的な場所になりました。

さらに建物の中では、資源をアップサイクルする起業家たちが、持ち込まれた素材を使って製品を作っています。

例えば、コロナの時代には、大量のファッションが持ち込まれています。家にいる時間が長く、しかも着る機会がない洋服を整理・処分する人が多いためです。ここに入居している起業家の一人で、ファッションデザイナーのラウラ・メイエリングさんは、こういったファッション資源から美しいファッションを生み出すブランド「Unravelau」を営んでいます。

Unravelauは、ゼロ・ウェイスト・コレクションを展開。製品はすべて注文を受けてから制作する、在庫を抱えず廃棄が少ないオンデマンドの生産だ/Image via website of Unravelau

Hedeさん:さらに、その隣に入居するスタートアップ「3-Cycle」は、古いフィットネスバイクをアップサイクルしてプラスチックグラインダーをつくり、これを使うことでアップサイクルセンターに持ち込まれるプラスチックを粉砕しています。そして粉砕された素材を加工して、まな板やナイフの持ち手、メダルなどの製品にアップサイクルするのです。この、プラスチックを粉砕してから製品に加工するまでの一連の工程をワークショップとしても提供しています。

自らの手(と足)でプラスチックを粉砕し製品に加工する3-Cycle/Image via 3-Cycle’s Facebook page

Hedeさん:そして、「Isolde de Ridder Jewelry」は、持ち込まれるPCや電子機器などから金や銀、アルミなどを取り出してジュエリーをつくっています。日本の木目金と呼ばれる手法なども用いて、とても素晴らしく美しいジュエリーを生み出すんです。

廃棄される電子機器の中から貴金属を取り出しジュエリーに加工するIsolde de Ridder Jewelry/Image via Upcyclecentrum

法律もアップデートが必要

Hedeさん:行政にとって、こういった起業家たちと協業することは、資源を有効活用し、サーキュラーエコノミーを住民に知ってもらうことができるという以上に、魅力的なメリットがあります。二次資源の活用方法とそれを阻んでいる法制度を理解することです。Isolde de Ridder Jewelryと共に二次資源活用を進める中で私たちは、個人情報保護法に抵触してしまうという問題に行き当たりました。さらには、必要な金属を取り出すためには様々な種類の化学物質の層をうまく取り除かなければならないこともわかりました。起業家たちが実際に使おうとするからこそ私たち自治体はこういった規制などの問題を特定することができます。

さらに、その問題解決には子ども・学生たちの力を借ります。異なる立場の人々みんなでひとつの課題解決のために取り組むことにつなげることができます。お互いから学び合うことができます。ひとりのひと、ひとつの組織がすべての解決策を持っていることはありえないのです。

子どもたちにとっては、ここは学びの場です。ここにきて、どのように資源が回収され、再利用されているか。この場所がどのように立てられ、どのような仕組みになっているかを一目見ることは、どんな説明をされるよりもわかりやすいのです。小学生から大学生までの子どもたちに、年代に応じて異なる教育プログラムを用意しています。例えば、製品の製造工程ではリサイクルしづらい方法で化学物質が多用されているという課題があります。社会の中で、こういった課題を解決できる人が必要とされています。

これを見た子どもたちは、自分はどんなことを将来学んでいきたいか考えるひとつの大きなきっかけとなります。私たちの直面している課題を共有することで、私たちのストーリーの一部になってくれるのです。オレンジのベストを着た資源回収担当者(もちろん社会の中で素晴らしく重要な役割です)だけがサーキュラーエコノミーの一部になるための選択肢でないことも伝えます。例えば、法律の専門家として、資源を再活用しやすいように法律を変えていくこともサーキュラーエコノミーへの移行に貢献することです。一部の法律が廃棄物の利用に制限をかけてしまっている現状がありますから。ここでは社会のすべての人が自分の役割を持っていることを見せることができるのです。

未来の社会を担う子どもたちにとって、アップサイクルセンターはサーキュラーエコノミーを実感できる学びの場だ/Image via Upcyclecentrum LinkedIn page

Hedeさん:現在私たちはより多くの資源を、より多くの事業者に提供することで取り組みを拡大したいと考えています。しかし、ここでも法律が障壁になっています。現行の法律では、一定量を超える二次資源を他の組織に受け渡す場合、廃棄物としての取り扱いに切り替わってしまうため、取り扱いには異なる許可証が必要となったり、様々な制限がかかります。

これを、同じ施設の中に起業家がオフィスと制作のためのアトリエを構えることで、「他機関に廃棄物を渡している」と捉えられなくなるため、この法律の制限を受けないで済んでいます。一方で、この施設に運び込まれる資源をセンター内に入居していない起業家・事業者にも提供していますが、法律に阻まれてこの量を増やすことができずにいました。現在主に手工芸品を取り扱う起業家たちが入居して提携に成功していますが、セメントなどの大型廃棄物を取り扱う外部業者とは協業を拡大して進められなかったのです。

これが、ようやく最近になって変わりつつあります。

このアップサイクルセンターがサーキュラーエコノミーのハブである、という前提条件のもと、市はパイロットを行うことを許可しました。「廃棄物」というラベルがつけられてしまうと、その後の取り扱いが制限されてしまうため、私たちはいかに二次資源がこの「廃棄物」というラベル付けがされる前の段階で再利用に回せるか、というアプローチでの実験です。市や起業家・事業者と対話をしながら、どのように二次資源を社会に戻すことができるのか、方法を検証しているところです。

もちろん、法律は市民たちの安全といった、大切な理由があって設定されているわけですから、安全性を担保することは前提条件ですし、自治体が許諾するための最重要条件のひとつです。他の自治体も同じ様にこの法律の制限が課題となっており、今回のアルメーレ市での実証プロジェクトは他の自治体にとっても有意義な結果をもたらしてくれるものだと考えています。

アルメーレの地域内循環のハブ・アップサイクルセンター/Image via Upcyclecentrum

編集後記

取材が終わって雑談をする中で「私の仕事は世界で一番最高だと思う」と言い切ったHedeさんの笑顔は、この場所で確かに社会が変わっていくという自信、実感と希望に満ちていた。

リサイクル・プラットフォームをアップサイクルセンターとして打ち出し、廃棄物の二次資源化と循環を確立・利用促進するのみならず、起業家と協業することで住民たちにごみが目の前でスタイリッシュな製品に生まれ変わる瞬間に立ち会う場を提供するアルメーレ市のアップサイクルセンター。緑で健康な循環する都市を目指すと掲げながらも、わからないことをわからないと認め住民や関係各社からの強力を仰ぐことで行政と民間、住民の間の信頼を生み出し、対話の中で一歩ずつ着実にサーキュラーエコノミーへの歩みを進める姿勢に私たちが学ぶことは多い。※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「Circular Economy Hub」からの転載記事となります。

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