健康的なダイエット

アマゾンが収集している大量の個人情報の中身と、その“追跡”をかわす方法

ジェフ・ベゾスには秘密兵器がある。わたしたちのデータだ。

アマゾンという小売りの帝国は、入り組んだインフラと問題視される職場環境の上に構築されている。そして同社の成功は、膨大な数の人々が何を購入し、何をAmazonのサイトで閲覧しているのかに関する複雑なデータに裏打ちされている。

かつてオンラインでの書籍販売専業だったころから、アマゾンは人々の個人情報にずっと執着している。同社の最高技術責任者(CTO)のウェルナー・ヴォーゲルズは約20年前、おすすめ商品を提供するために「できる限り多くの情報を収集したい」と語っていた。

そしてアマゾンが成長するにつれ、データを収集する業務も拡大していった。「アマゾンはたまたま商品を売っているだけであって、基本はデータ企業なのです」と、同社の元幹部は2020年にBBCの取材に語っている。

多くの個人情報を把握しているアマゾン

アマゾンは、あなたについても多くのことを把握している。アマゾンのアプリやサイトで何を検索したか、一つひとつのクリック、スクロール、マウスの動きまで、アマゾンのエコシステム内でとる行動のすべてが知られているのだ。

これだけでも情報量は膨大なものになるが、アマゾンがもっているデータのほんの一部にすぎない。ある人がアマゾンに自分に関するデータの開示を申請したところ、何百件ものファイルが送られてきたという。そこには10年分の購買履歴や音声アシスタント「Alexa」が録音した音声なども含まれていた。

「アマゾンでのオンラインショッピングが便利な理由は、同社が何年もかけてその力と人々への到達しやすさを強化してきたからです」と、人権擁護団体「プライバシー・インターナショナル」で企業のデータ活用プログラムのディレクターを務めるサラ・ネルソンは言う。「アマゾンは小売プラットフォームを通じて膨大なデータを収集できる立場にあります。それだけでなく、家庭用監視カメラのRingや音声アシスタントのAlexa、ウェブサーヴィス、配送サーヴィス、ストリーミングサーヴィスなど、多くのチャネルからデータを収集しています」

アマゾンはヘルスケア事業にも参入しつつあることから、この点についてもネルソンは懸念をもっている。

またアマゾンは、データ収集に問題があるとして規制当局の不興を買ってもいるようだ。アマゾンの個人データの使用方法が欧州連合(EU)の一般データ保護規則(GDPR)」に違反したとして、同社の欧州本部があるルクセンブルクのデータ保護当局が罰金4億2,500万ドル(約466億円)を科す用意があると、2020年6月10日付の『ウォール・ストリート・ジャーナル』が報じたのである。

もっとも、記事には詳細が書かれておらず、罰金を科せられる可能性についてアマゾンの広報担当はコメントを控えている。また英国の規制当局も、反競争的行為の疑いでアマゾンのデータ活用に目を光らせている。英国政府もアマゾンに対し、RingやAlexaに記録された情報など多くのデータを開示するよう要求している。

アマゾンが収集している個人情報の中身

まず、アマゾンの「プライバシー規約」を見てみよう。英国版で約4,400語を超えるこの規約を、ほとんどの人が読みもしなくても驚くことではない。だが、この規約が、あなたのデータをどう扱うかについて明確に規定している。

アマゾンが収集する個人情報の主な情報源は3つある。ひとつが、アマゾンや同社のサーヴィス(Kindleで電子書籍を読むなど)を利用する際に、あなたがアマゾンに与える情報だ。二つ目がアマゾンが自動的に収集する情報(あなたのスマートフォンに関する情報や位置情報など)で、3つ目がアマゾンが第三者から入手する情報(個人アカウントの不正を判断するための信用調査など)である。

アマゾンがデータを収集する最終目的は何だろうか? それは、もっと多くの商品を売ることだ。アマゾンは個人情報のみならず、あなたの好き嫌いについて知りうるすべての情報を駆使して、あなたが買う可能性のある品物を「おすすめ商品」として提示する。さらに、アマゾンで最も人気のある販売業者や人々の消費行動についても、その傾向を把握できる。

「個人の購買行動に関する情報は、極めて慎重に扱うべきデータです」と、オックスフォード大学で倫理学を専門とする准教授のカリッサ・ヴェリズは指摘する。「購買履歴からは、その人の健康状態や政治的傾向、性的嗜好など、実に多くのことがわかってしまいます。人々は書籍から映画、健康関連の商品まで、あらゆるものをアマゾンで購入しています。これにAlexaが収集した個人情報を加えると、問題はもっと深刻になります」

さらにアマゾンは、あなたの位置情報も活用している。購入した商品を確実に配達する目的だ。「Amazonは、お客様に提供する商品やサービスの運営、提供、開発及び改善のために、個人情報を利用します」と、アマゾンのプライバシー規約には書かれている。さらに、収集するデータに対する法的な主張も幅広く規定している。

あなたがアマゾンに“渡している”情報

それでは、あなたがアマゾンに渡した情報を見てみよう。アマゾンのウェブサイトやアプリ、商品に関するあなたの行動は、すべて何らかのかたちで保存されていると想定すべきだ。アマゾンで注文した商品、Amazonプライム・ビデオで閲覧した番組、Amazon Musicで聴いた音楽、Alexaへの指示など、すべてがトラッキングされ保存されている。

アマゾンのプライバシー規約によると、個人の設定にもよるが、あなたは次のような情報をアマゾンに与えている。まずは自分の氏名と住所、電話番号、銀行口座などの決済に関する詳しい情報、年齢、位置情報。さらに、連絡帳に記載された人の氏名、メールアドレス、住所も渡している。また、自分のプロフィールにアップロードした写真、プレイリスト、ウォッチリスト、ほしい物リスト、音声記録、Wi-Fiの情報、信用履歴なども筒抜けだ。アマゾン経由で商品を販売した場合は、EUなら付加価値税(VAT)に関するデータや事業者情報も提供している。

さらに不気味に思えるのは、アマゾンが自動的に収集する情報だ。これにはあなたがアマゾンのサーヴィスをいつ、どのように利用するのかに関するすべてのデータが含まれる。

アマゾンのウェブサイトでクリックしたすべての詳細についてフリージャーナリストのリッカルド・コルチーニが要求したところ、12,048行もの表が送られてきたという。コルチーニが2018年に自身のウェブサイトで発表した記事によると、「あるページを訪問した日と時間の情報、使用したIPアドレスとデヴァイス名、可能な場合はIPアドレスに基づく位置情報、インターネット接続を提供した通信事業者名」が記載されていたという。

このほか、Kindleで電子書籍を読んだ日と時間のみならず、コピーしたりハイライトしたりする内容も記録される。また、Ringが検出したドアの向こう側の動画記録や、Ringアプリ内でのタップ動作まですべてが記録されている。

インタラクションの状況まで把握

アマゾンのプライバシー規約によると、自動的に収集される情報はIPアドレスやログインの詳細、コンピューターの位置情報、アマゾンのサーヴィスを使用した際にデヴァイスが記録したエラー、アプリの設定、Cookieの詳細情報、スマートフォンやコンピューターにリンクした識別子、クリックしたすべてのURL(スクロールやクリック、マウスの動きといったページとのインタラクションの情報が含まれる)だ。

ユーザーとのインタラクションの情報の収集・記録はいまや常識となっており、サイトの質の向上やバグの特定に活用されている。だが、こうした情報はどんどん蓄積されていく。こうして収集したデータをアマゾンは自社サーヴィスの向上に活用するだけでなく、法令上の義務など別の目的にも利用すると言う。なお、「Amazonは個人情報を第三者に販売する業務は行っておりません」と、プライバシー規約には書かれている。

アマゾンが収集する個人情報の3つ目の情報源は、第三者からのものだ。これに含まれるのは、更新された配達先の住所(あなたが提供した住所に問題があることを運送会社が発見した場合)、アマゾンが共同ブランド事業を展開する事業者から来るアカウントと購入の情報、アマゾンの子会社(多数あり、個別にプライヴァシー規約を保有している)との「インタラクション」に関する情報、Alexaとリンクさせたデヴァイスについての情報、不正を検知するための努力の一環としての信用履歴がある。

トラッキングの阻止は不可能だが…

アマゾンによるトラッキングを完全に阻止することは不可能だ。アマゾンで買い物をする限り、アマゾンはあなたの情報を収集する。

だが、アマゾンが収集・使用する情報を制限する手段はいくつかある。なかにはアマゾン自身が提供している手段もあれば、使用するブラウザーの設定を変えたり、別のツールを使ったりして達成できる手段もある。

まず最初に、アマゾンが過去にどんなデータを収集したのか内容を知りたい場合は、アマゾンのダウンロードツールを使う方法がある。だが、これはアマゾンが保有しているあなたについての情報の一部にすぎず、すべての情報が必要なら個人情報の開示請求(英国ではSARと呼ばれる)をすることになる。

これ以外にも、アマゾンがプライヴァシー保護のために用意した機能がいくつかある。例えば、AlexaやRingには独自のプライヴァシー設定があり、録音した音声を削除したりプライヴァシー設定を管理したりできるようになっている。

だがアマゾンが保有する情報の大半にアクセスするには、自分のAmazonアカウントを使う必要がある。これにより、あなたの好みや興味に特化した広告を表示させないようにはできるものの、アマゾンで以前に購入した商品に基づくおすすめ商品は表示される(調整はできてもオフにはできない)。

このため、第三者による個人情報の収集を可能にする広告用のCookieをオフにすることも検討すべきだろう。Cookieを利用するアマゾンの外部のパートナー企業は、フェイスブックからオンラインゲーム大手のKing Digital Entertainmentまで75社以上ある。

履歴は消去できるのか?

アマゾンでの閲覧履歴を“消す”こともできる。もっとも、その効果については疑わしいという意見もある。

アマゾンの設定ページには、「Amazonではお客様の閲覧履歴を非表示のままにすることができます」と書かれている。「閲覧履歴をオフにすると、お客様がこの端末でクリックしたり検索したりした商品が表示されなくなります」というのだ。とはいえ、データ自体が削除されたわけではない。

オックスフォード大学のヴェリズによると、アマゾンに個人データを削除させることは非常に難しい可能性がある。「ご存じのとおり、自分の購入履歴を削除する方法はありません。まったくないのです。10年以上も前に購入した商品でさえ削除できません」と、ヴェリズは言う。「せいぜいできることは、購入履歴を自分に見えないようにすることです。ばかげたことですが、これさえできない場合もあります」

なお、個別の注文履歴の非表示は、注文履歴のページで可能だ。ドロップダウンメニューには、Amazonアカウントをもっていた年が表示される。

アマゾンによるトラッキングにアマゾン独自のツール以外を用いて制限をかけたいなら、プライヴァシーを重視したブラウザーを使う必要がある。こうしたブラウザーは自動的に第三者のCookieを無効にし、ウェブ全体でトラッキングを阻止できる。

また、検索の際にAmazonアカウントと関連づけされたくないなら、忘れずにAmazonアカウントをログアウトしておく必要がある。製品を探したり購入したりする際に、メーカーから直接購入したり、ほかのネット通販事業者を利用する手もあるだろう。

そしてアマゾンによるトラッキングを完全に拒否したいなら、究極の選択がある。それはAmazonアカウントの削除だ。

※『WIRED』によるアマゾンの関連記事はこちら。


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